国民年金と厚生年金
日本の年金制度の特徴は、(1)納付額一定の国民年金と、(2)納付額が所得に比例して増加する厚生年金(*)の二つの異なる制度に分かれている点です。
(*)この他に、官公庁の職員および学校の教員が加入する共済組合があります。共済組合の制度は厚生年金に準じた内容となっているので、この記事では省略します。
(1) 国民年金は、すべての成人が加入させられます。納付義務がある対象は、専業主婦(主夫)・学生・低所得者を除くすべての成人です。納付額は、所得にかかわらず一定で、厚生年金に比べると比較的低額です。この国民年金は、日本の住民全体をカバーする一律の納付とサービスの年金であり、他国の公的年金制度と類似したものです。
(2) いっぽう厚生年金は、一定規模以上の民間企業に雇用される従業員が加入します。制度の設計としては、国民年金の加入者のうち企業の従業員に限って追加の年金が設定されています。納付額は、従業員の所得額に比例して増加します(上限あり)。したがって、比較的高い給与を受け取っている従業員は、比例して比較的高額の厚生年金を毎月納付させられます。納付は従業員が行わず、雇主の企業が給与から事前に差し引いて国に納付します(源泉徴収)。
厚生年金は、勤労期の納付額の大小に応じて老齢期の払い戻し額が大きく増減します。したがって、この制度は国が運営する個人年金の意義を持っています。
厚生年金の納付額の半分は雇主企業による納付
さらに、給与から源泉徴収される厚生年金の金額に加えて、その同額が雇主企業によって国に納付されています。したがって、各従業員の一人当たりの厚生年金納付額は、合わせると源泉徴収の2倍となります。その結果、老齢期になったとき払い戻される厚生年金の金額は、源泉徴収された分と雇主企業が納付した分を総計した金額で計算されます。 この制度を通じて、厚生年金は本来給与として雇主企業が用意した毎月の金額のうち相当の割合を、国に納付していることになります。こうして、老齢期になったときの厚生年金の支給額は、国民年金に比べるとかなり大きな金額となります。
年金制度の見直し議論は、年金財政への懸念が背景にある
このように、日本の厚生年金は、給与からかなりの納付額を徴収して老齢期に比較的大きな支給額を支払う制度となっています。この制度は、世界的にも類例が少ないものです。
ただし、現在年金の財源不足が懸念されています。年金の財源は(1)保険料収入(毎年勤労者が納付する額)(2)積立金(過去に積み立てられた財源とその運用益)および(3)国庫負担金(国家財政からの負担金)、です。毎年の納付金と過去の積立金だけでは老齢年金の支給には不足で、毎年多額の国庫負担金が日本の財政から支出されています。今後日本の少子高齢化の進展に伴い、保険料収入と年金支給額のバランスは深刻化することは必至で、財政の負担には限度があります。したがって、年金制度の見直しが議論されています。
年金制度の見直し点としては、(1)納付額の増額、(2)納付対象者の見直し(たとえばパート従業員を国民年金から厚生年金に変更する、専業主婦(主夫)に国民年金の納付義務を課す、など)、(3)納付期間の延長(現在は国民年金であれば60歳)、または(4)年金支給額のカットあるいは年金支給開始時期の先延ばし(現在は65歳から支給)、などが考えられます。すでにこれらの点の一部は、担当官庁である厚生労働省から改革案として政府に提示されているところです。
しかしながら、最近政府与党の総裁候補者であった国会議員が「年金支給開始時期の80歳までの先延ばし」を解決策として構想していると報道されて、国民から猛烈な反発が起こったところです。上のような制度見直しの実現は、今後容易ではないと思われます。
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